公開済みの「【EC商品写真】商品写真とはどういうものか」の記事中で掲載した「コマーシャル写真」作例の撮影風景を紹介します。
メーカーが商品を販売するタイミングでは、販売促進用に小売店に渡す公式写真とともに、認知促進やプロモーション目的での写真が用意されることが多いです。前者は「メーカー公式写真」としてEC商品写真や店頭ポップ、チラシといった用途で使われます。一方の後者はポスターや広告クリエイティブといったブロードリーチの認知拡大目的で使われる写真です。認知目的ですから、機能性だけでなくターゲットに訴求したい商品イメージをも含めて写真に意図を盛り込むものです。
といったことを書いても「メーカー公式写真」と「コマーシャル写真」の違いがイメージしにくいという方もいらっしゃるのではないかと思います。そんな時に私が写真撮影セミナーでわかりやすい例として伝えているのが「ポカリスエット」です。
■メーカー公式写真のイメージ – ポカリスエット公式
https://pocarisweat.jp/products/pocarisweat/
■コマーシャル写真のイメージ – ポカリスエット公式
https://pocarisweat.jp/about/sugariness/
いずれも公式サイトに掲載されている写真ですが、メーカー公式写真はいわゆる真正面のフラットな仕上りです。Amazonの検索結果や商品詳細ページの代表画像で表示されそうなクリエイティブです。
一方のコマーシャル写真。ボトルの周辺に水しぶきが飛び散っているようなクリエイティブが掲載されています。これはポカリスエットの商品の特徴そのものです。みなさんご存知のようにポカリスエットのコアバリューは「素早く効率的な水分補給」です。この特徴を訴求するために、ボトルの周辺に水しぶきを入れてみずみずしいイメージを表現しているのです。
2つのパターンをご覧いただき違いをイメージできましたでしょうか?シンプルにお伝えしますと、メーカー公式写真は商品の外見の特徴を正確に表現することがメインミッションですが、コマーシャル写真のイメージやメーカーが伝えたいことを表現することが求められます。
ではリップの写真に戻ります。冒頭の作例は以下のような環境で撮影しています。
メーカー公式写真を撮影したときのセットと比べると、かなりシンプルなセッティングです。
セッティング図もシンプルそのもの。被写体の上手斜め上にライトをセット。ライトの先端にはアンブレラやソフトボックスといった柔らかい光を作るためのアタッチメントはつけておらず、ちょっと大きめなリフレクターをつけたまま直接被写体に光を照射しています。被写体の下手には白レフを置いてストロボの光を反射することでシェードを若干起こしています。
この写真の工夫ポイントは被写体の置き方です。練り消しを適当な大きさにちぎってリップ本体とフタをテーブルから若干浮かせます。こうすることで被写体と影の位置が若干離れるので立体感を表現できます。
ちなみに今回使った練り消しはこちら。はるか昔、ヨドバシカメラ新宿西口本店のカメラ館3階で物撮り用消耗品として販売されていたものを購入しました。でも、別に撮影専用のものでなくても、通常の絵画用の練り消しでも十分使えます。
こちらは写真右上、斜め上からストロボを照射しただけの状態です。下手側に白レフは入れていません。こうやって見ると被写体の右側にはハイライトが入りつつも、左側はシェードが比較的濃く出ているのがわかると思います。こういった撮り方もなくはないのですが、リップ本体の「AUBE」というブランド名の「A」が見えなくなっているので、商品写真としては微妙です。
先ほどの状態に加え、被写体下手側に白レフを入れて撮影したのがこちら。白レフが被写体左側に映り込んでシェードをやわらかく起こしてくれています。その一方で白背景の上に落とした影がレフの効果で薄くなってしまっています。今回の写真は濃い影も重要な要素なので、この2枚をPhotoshopで合成します。
先程の白レフを入れた写真から被写体本体を切り抜いて、レフなし写真にはめ込みます。そうすることで「被写体は白レフのハイライト入り」で「白背景にはコントラストの強い影」という写真を作ります。そうやって仕上がったのがこちらです。
冒頭でも書きましたが、コマーシャル写真とは「商品の特徴」や「メーカーが伝えたいこと」を表現する写真です。ですので、確実に「このように撮りたい」という作画意図が存在します。このリップは「落ちにくい」というのが特徴のようですから、落ちにくいリップが求められるシーンを考えてみました。
「営業の仕事で客先訪問など屋外でバリバリ活躍される女性。落ち着いて化粧直しをできる環境が少ないので、なるべく落ちにくいリップを使うことで、バキッと整ったままの状態で長い時間アクティブに活動できる」
といったユースケースをクリエイティブに表現してみることにしました。晴れた日の屋外はコントラストの強い影が出るので、硬い光でハイライトとシャドウをくっきり表現しています。そして練り消しを使ってリップを浮き上がらせることで屋外をアクティブに動き回るような軽やかで活動的なイメージを表現しています。
コマーシャル写真では「作画意図」が重要であるということがなんとなく伝わりましたでしょうか?EC商品写真やメーカー公式写真も本質的には作画意図を持って撮影することが大切ですが、ことコマーシャル写真においては作画意図がなければどう撮っていいかすらも決まりません。例えば人物を撮影するときに「このモデルのやさしい性格を表現したい」とか、例えば中華屋で出てきた天津飯を撮影するときに「湯気がたっぷり出ている様子を押さえることで熱々の様子を撮影したい」といった感じで、多かれ少なかれ「このように撮りたい」という意図を持って撮影されることはあると思います。商品撮影も同様です。
といった感じで作画意図を持って撮影に臨むことで、目的に沿った写真を仕上げることができます。みなさんも一度お試しあれ。