「露出補正で劇的改善!映えるスマホ写真」の記事中で、スマホカメラで写真を撮るときは露出補正を手動に切替えてプラスに補正することによって、見た目のイメージに仕上げることを紹介しました。今回はこの記事の補足ですので、まずは以下記事を先にお読みください。
カメラの自動露出補正の機能が、真っ白や真っ黒なものを勝手にグレーに補正しちゃうと言っても、感覚的に理解しにくいのではないかと思います。そこで今回は、カメラの露出補正がどのように機能するか実験してみます。
人間の目は日中の屋外でも、夜の室内でも同じような明るさで識別できるようにできています。ですが、カメラのような機械の場合は、明るさを定義する各種設定を個別に設定してあげる必要があります。
<カメラで明るさを決めるための3要素>
カメラはこの3要素の組み合わせでセンサーに取り込む光の量をコントロールします。はるか昔、フィルム時代のマニュアルカメラはこれら明るさのパラメータを全て手動で設定する必要がありました。かつては晴れた日の屋外の露出値を「Sunny16(サニー16)」というワードで記憶していた時代もあったようです。Sunnyとは晴れた日の屋外での撮影環境のことで、絞り値がf/16でシャッタースピード1/125に合わせてISO100のフィルムを入れて撮ると適正露出で撮れるのです。これを基準の明るさとしてちょっと雲がある場合は1段マイナス、日陰の場合は2段マイナス、雨天では3段マイナスといった具合に大雑把に露出を覚えて設定していたようです。
こういった時代でもネガフィルムであればラティチュードが広いので、多少露出を外しても現像時の調整で簡単に修正が可能だったので、これぐらい大雑把な露出設定でもなんとかなっていました。しかしリバーサルフィルムのようにラティチュードが極めて狭いフィルムを使う場合は、正しく露出を設定するためには単体露出計で撮影環境の露出を計測する必要がありました。続いて、カメラの中に露出計が搭載されて、ファインダー内にインジゲーターを見ながらシャッタースピードと絞りを調整して適正露出に合わせるという時代がやってきます。そうこうしているうちに、この露出計の機能を発展させて自動露出補正(AE = Automatic Exposure)が搭載されました。
一眼レフカメラやミラーレス一眼では露出プログラムとして以下のようにAvやTvといった表記があるかと思います。これらは全て自動露出補正のバリエーションです。
こういった機能がカメラに搭載されることによって、写真を撮るときに露出ミスによる極端な失敗はしにくくなりました。例えば画面全体が明るく飛んで真っ白になったり、暗すぎて真っ暗になったり。ですが、逆に自動露出補正の「自動」のメカニズムをしっかり理解していないと、表現したいと思った露出を実現できなくなります。
自動露出補正は「明るすぎるものを暗く」「暗すぎるものを明るく」することで、自動的にちょうどいい明るさに補正してくれる機能なわけです。この「自動的」というのが曲者でして、例えば日中の屋外の様子を表現しようと明るい写真を撮りたいと思ったとしても、カメラが勝手に「この被写体は明るすぎるから暗くしよう」と薄暗く仕上がってしまうこともあるのです。
では、カメラはどのような色を「ちょうどいい明るさ」と認識していて、真っ白や真っ黒をどのような色に合わせようとするのでしょうか。それは以下のような「グレー」が基準となっているのです。
カメラにとってホワイトは「明るすぎる色」なので暗めに補正されます。逆にブラックは「暗すぎる色」なので明るめに補正されます。その結果として中間色のグレーに落ち着きます。一説によると自然の風景の色彩を平均するとこのグレーになるとも言われているようです。このグレーが世の中すべてのカメラの基準としてインプットされていて、自動露出補正のときにこの明るさに近くなるように補正されます。
とは言っても「ホントに?」と思いますよね。このグレーって想像以上に濃く感じませんか?「真っ白がこんなに濃いグレーになるのか?」「真っ黒はどうやったって黒のままじゃないのか?」と疑念を抱かれるのではないかと思います。そこで実験してみます。
蛍光灯がついた部屋の壁際に、写真のように「白い紙」「グレーの紙」「黒い紙」をセットします。ご覧いただいた通り、紙の色はそれぞれ白、グレー、黒であることがおわかりいただけると思います。それでは次に、それぞれの紙の中心部分にズームアップして撮影した写真です。
いかがでしょうか?見事なまでに3枚とも同じ色になっていると思いませんか?3枚ともグレーの紙を撮ったわけではありません。間違いなく白、グレー、黒の紙を撮影した写真です。これが自動露出補正の効果です。この写真を撮影したときの露出補正は±0、露出プログラムは「Avモード(絞りの値を固定してその他のパラメーターはカメラまかせ)」ですので絞り値は3枚とも同じですが、シャッタースピードとISO感度はカメラが勝手に値を変えています。
白 | グレー | 黒 | |
ISO感度 | 2500 | 5000 | 12800 |
シャッタースピード | 1/200 | 1/200 | 1/60 |
絞り | f/8.0 | f/8.0 | f/8.0 |
このように設定値を見ると、カメラがそれぞれの色をどのように解釈しているのかわかります。「グレー」はだいたい基準の明るさに近いので、カメラから見るとおおよそ「普通の明るさ」と解釈されていると思われます。ところが「白」はグレーとシャッタースピードが同じく1/200ですが、ISO感度が2500とグレーよりも低い値となっています。白い紙はカメラから見ると「明るいので暗くしよう」と解釈されていることがうかがえます。ちなみに、この時撮影したカメラはAvやPなどシャッタースピードを機械まかせにするモードの場合、レンズの焦点距離に応じて手ブレしにくいシャッタースピードを自動設定の下限値とします。白とグレーのシャッタースピードがそれぞれ1/200になっているのは、この時使っていたレンズの焦点距離が172mmだったので、これに合わせた下限値設定になっていると思います。これ以上シャッタースピードを下げると手ブレするから、明るさを変えるためには残った可変パラーメーターであるISO感度を変えようとしているのです。この前提で「黒」のカラムを見てみてください。シャッタースピードが手ブレ限界の1/200を割り込んで1/60となっています。これはISO感度が12800と設定上限に近い値になっていることから、これ以上明るくするには可変させられるパラメーターはシャッタースピードしかなくなってしまったので、手ブレ下限値をも突破してシャッタースピードを遅くせざるを得なくなったのです。
みなさん、いかがでしたでしょうか?露出補正がどのように機能しているかイメージできましたでしょうか?もしかしたら「そんなことはない。俺が撮った写真は画面の大部分が白だったけど、ちゃんと白っぽく写っていたぞ!」という方もいらっしゃるかもしれません。それはおそらく測光モードの違いです。
カメラが勝手に露出補正をかけるわけですが、カメラがフレーム内の露出を判断する「点」もしくは「エリア」を選択するのが測光モードです。代表的なのが中央1点。フレーム内のセンターの1点の明るさを解釈して露出のプラス・マイナスを判断します。例えば日中の室内で写真を撮っていたときに、屋外が見える窓をフレームのセンターに配置すると、窓の外の屋外の明るさをカメラが自動的に適正露出に合わせようとします。室内よりも窓の外の方が圧倒的に明るいので、屋外の明るさが適正に写るようにカメラの設定値が変わります。でも、そうすると窓から離れた室内は真っ黒に写ってしまいます。一方で「評価測光」や「マルチパターン測光」といった、フレーム全体を平均的に解釈して明るさを調整するようなモードもあります。このあたりの被写体や撮影シーンに応じた測光モードの選び方は、そのうち別エントリで紹介します。いずれにしてもカメラ自体が持っている自動露出補正はこのように「全ての色を基準色である18%グレーに合わせようとする」という機能であることをご理解いただければと思います。
このように自動露出補正のメカニズムを理解した上で・・・
「室内の白い壁の前では自動露出補正で薄暗く写ってしまうので、手動でプラス補正をかけて目で見たイメージと近い明るさで撮ろう」
「夕暮れ時の写真を撮りたいけど、画面内のアスファルトが黒っぽくて勝手に明るくされてしまうので、手動でマイナス補正をかけてローキーでシックなイメージで仕上げよう」
といった感じで手動で露出補正をかけることで、イメージ通りの仕上りになるように調整して撮影されることをお勧めします。